台本の改訂作業
- 土田英生
- 2016年7月18日
- 読了時間: 4分
8月5日が初日。残りは2週間になってしまった。 とても焦っている。 なぜなら台本の改訂作業がまだ終わっていないからだ。
今回の作品は歪の三人にインタビューして書いた作品「ソラミミホンネレソラシド」がベースになっている。そこに二人の登場人物を足して新しい作品に作りかえるということをしている。

これは前回の本番での写真。つまり「ソラミミホンネレソラシド」の一場面だ。
今回も同じシーンがある。
けれど、ここに行くまでの展開を同じにしようとすると、逆に工夫が必要になる。
改訂というのは割と厄介なのだ。
むしろ一から書いた方が楽だと思うこともある。
なぜか。
一箇所変えると、全部を変えなければいけなくなったりするからだ。
戯曲講座などに呼ばれると必ずやってもらう課題がある。
それは「5行だけで事情をわからせる」というものだ。
例えばAとBが喋っている。
そして「この二人は男女で、過去に付き合い、そして今は別れている」という設定にする。
それを5行で分からせなければいけないという課題だ。
なんだ、そんなこと簡単だと思うかもしれない。
例えば
A 私たちって別れて何年になるんだっけ?
B ちょうど2年だよ。
これなら2行で済んでしまう。
もちろんこれでもいい。
けれど、課題の意図はそこにはない。「別れた」とか「付き合っていた」などのダイレクトな説明を使わずに書いてもらうのだ。
なぜこんなことをするのかというと、演劇はあくまで作者が勝手に作った世界を観客に見せつけるものだからだ。だから作り手の事情を押し付けてはいけない。
反発を招くだけなのだ。
お客さんは最初から世界に入り込んではくれない。
まずは興味を持たせ、そして事情をわからせなけれはいけないのだ。
上の例だと分りにくいので、もっと極端な例を出す。
例えば刑事役の人がいる。
けれどそれはあくまで俳優であって、本物の刑事ではない。
なのにいきなり役者が登場してきて「ああ、なんで、俺、刑事になったんだろう」という台詞を言う。
この時に観客の心に生まれる感情は「あ、刑事なんだ」ではなく、「そんなこと知らねえよ」だ。
観客がなんの興味も持っていない時に、説明する台詞は押し付けになってしまう。
だからまずは刑事だとはわからせず、様々な行動をさせる。
張り込みをしている設定だったとしたら、「アンパン買ってきて」でもいいし、ただあくびをするだけでもいい。で、隣にいる別の役者とパンについて語りあったり、睡眠について語りあったりさせる中で、「あれ? この人たち、何をしているんだろう」という疑問を抱かせなければいけない。
そして段々にお客さんは予想を絞っていく。
で、もしかしたら……と思った瞬間に、「ああ、なんで、俺、刑事になったんだろう」と言うのであれば、観客は「あ、やっぱりね。刑事じゃないかとちょっと思ったんだよね」と納得してくれる。
つまり疑問を持たせ、それを絞らせ、回答が分かる手前ではっきりと事情を出す。この塩梅が必要になるのだ。
いい映画などを見ていると、伏線がとても微妙だったりする。
「あの時、花瓶がチラッと映ったもんな。あれ、最終的に犯人が狂気に使った花瓶だよな。けど、あまりに微妙だったよ。俺にはわかったけど、他の観客に分かるんだろうか」などと思う。しかし誰にでもちゃんと分かるのだ。そうして作られているからだ。
これがあまりにベタでは白けてしまうし、逆にさらっとしすぎていると誰も花瓶に気づいてくれない。
それと同じだ。
だからさっきの男女が、付き合っていたなどと一切語らず、それでいて「あれ? 付き合ってたんじゃないの」と観客に思わせる工夫が必要なのだ。
で、そういう時に、小道具を使う。
小道具とはいっても、本当の道具ではなく、二人が付き合っていたと想像させる何かを探すということだ。
二人で一緒に住んでいた時に飼っていた猫の話でもいいし、お揃いのマグカップでもいい。
とにかくそれについて会話させれば付き合っていたことが間接的に分かる何かを探す。
で、今回の歪の改訂の話に戻す。
今回、話の縦軸は変わっていないのだが、設定が変わっていたりする。
すると……こうした小道具要素を変えなければ成立しなくなってしまう。
だから結局は新たに書く羽目になる。しかも流れだけは決まっているので、どうにかしてつなげなけれないけない。これが難しいのだ。
とは言いながら、やっとラストどうするのかが決まった。
だからこうして書いてるんだけどね。
早く終わらせて、稽古に専念しないと。